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2011年1月3日
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「ごめん」 8000キリリク

わりぃ・・・・・・




慰霊碑の前、アイツの名を見つめていた。
深く刻まれた、消える事のない名。
そっと慰霊碑に触れると、まるであの時のアイツの様に冷たかった。

気がつけば、5年前のあの日は一番最後に書かれていたアイツの名の下には、他にも何人かの名前が追加されていた。
全てアイツと同じように散ったもの。

どれだけ、俺と同じように、涙をこの前で流した者がいるのだろうか。
どれだけ、俺と同じように、刻まれた名を呼び続けた者がいるのだろうか。

「・・・アスマ・・・」

人差し指でアイツの名をなぞりながら、静かに呟いた。

どれだけアイツを想っても、どれだけアイツの名を呼んでも、意味ないのに・・・

「シカマル。」

呼ばれた名に振り向けば、いつものように優しい笑みを浮かべて、カカシさんがいた。
俺をあの日から誰よりも心配してくれた人。
アスマの遺言にあったらしく、この人はずっと俺を支えてくれた。
今俺が涙しないで此処にいるのはこの人のおかげかもしれない。

「カカシさん・・・どうしたんですか?」

こんな所で、と歩み寄る。
いつのまにか身長が伸びた俺は、カカシさんよりちょっと小さい程度となっていた。
昔は見上げていた事ももう思い出せない。

「いやだな~シカマル~ 今日は一緒に任務だって事忘れちゃった?」
「ちゃんと覚えてますよ。でもまだ1時間後ですよね?」

ちょっと拗ねたように言うカカシさんに苦笑した。
この人のこういう所は昔から変わらない。
いつもクールな中で、こういった子供のような事をする。
それがきっと畑カカシの魅力の一つだろう。

「シカマル?・・・もしかして時間読めなくなっちゃった?」
「え?・・・」

首をかしげ、ちょっと冗談ぽく言うカカシさんの目が、その声とは裏腹に不安に揺れていた。
それに気がつき、即座に時間を確認した。
見れば、もう集合時間5分前。

「・・・あ・・・」
「シカマルはいつも10分前に来るから、どこかで迷子になってるのかな~って探しにきたの」

でも迷子の小鹿ちゃんになってなくて良かった、と冗談を言うカカシさん。
けど、俺の頭を撫でる手は、意外にも微かに震えていた。
心配をかけてしまった。

「あっ・・・すみません・・・」

俺らしくない事だ。
時間を忘れてしまうぐらい、アイツの事を考えてしまうなんて。
そんな事、もう最近ずっと無かった。

「そんな事言ってないで、早く集合場所行こうか」
「あ・・・はい・・・」

腕を引っ張られて、アイツの名に別れを言える事なく、その場を後にする事となった。




集合時間になっても来ないあの子。
そのぐらい誰でもあるだろう、そう片付けてもよかった。
けど、あの子の事をずっと側で見てきたせいだろうか。
今シカマルが何か悲痛な叫びを上げているような、そんな気がした。
それに、アイツの命日も近い。
あの子の心が不安定になっていてもおかしくなかった。

同僚にすぐに戻ってくると言い、すぐさまあの子のもとへ向かった。
別にあの子があそこに居るとは限らない、そう思ったが、何故か居る気がした。
足は自然とあそこ、慰霊碑へと向いていた。

「シカマル。」

案の定、そこにあの子はいた。
冷たく、何一つ応えてはくれない慰霊碑の前、何も言わずに立つ姿。
振り返ったあの子は驚いているようであった。
そんな様子のあの子へと、いつもどおりの笑みを向ける。

「カカシさん・・・どうしたんですか?」

そう言いながら歩み寄るシカマル。
シカマル。
俺がずっと昔から想い続けている相手。
けど彼はアスマの恋人。
その全てが、俺の親友のアスマのもの。
そして、俺があの日からアイツの代わりに守り続けている大切な人。

あの日、アイツの命日となる数日前。
アイツは俺に一つの封筒を渡してきた。
それが遺書である事はすぐに分かった。
忍なら普通皆書くものだから、それほど気にする必要もなかった。
俺は黙ってそれを受け取り、そして生きて帰って来いと伝えた。
そんな俺の言葉に、アイツは笑いながら、おぅと言った。
まさかそれがアイツとの最後だとは、正直考えていなかった。
忍は死と隣り合わせに生きている。
それは分かっていた。
少なくとも、分かっていたつもりだった。
けど、アイツは、あの子、シカマルが居る限り、何故か死なないような気がしていた。
それは俺の勝手な考えであったようであるが。

アイツの遺書を開く時、ガタガタと手が震えて、なかなか上手くいかなかった。
いつものアイツからは想像ができないほど、綺麗に折られた三つ折の白い手紙。
そこに綴られていたのは、謝罪とシカマルを頼む、ただその二つ。
綺麗な手紙とは反対に、えらくアイツらしいその文面。
きっとアイツの事だ。
シカマルには手紙の一つもないのだろう。
アイツは自分のせいで人が悲しむ事など絶対に嫌だろう。
早く自分の事など忘れてほしい、そんな単純な事を考えているのだろう。
アイツはそういう奴だ。
単純で不器用で優しい。

アスマの馬鹿と、その手紙を握りつぶしながら泣いた。
そして約束した。
これが最後の涙だと。
そしてアイツの大切なものを守ることを。



でもある日突然、人生の分岐点が訪れる。



「シカマル。」

読書をしていたらカカシさんの声が上からした。
本から視線を上げると、そこにはちょっと怒った様子の顔。

「・・・カカシ・・・さん?・・・」
「・・・何度夕飯だよ、って言えばいいのかな~?」

にっこりと飛び切りの笑顔のカカシさん。
正直怖いので、そういう顔をしないでください、と言いたい。

「あー・・・すみません。」

本を横に置くとソファから立ち上がろうとした。
けど、その動作がカカシさんによって妨害された。
何だろうと視線を上げれば、目の前には綺麗な瞳。

「っ!?」

驚いて後ろに下がれば、ソファに邪魔されバランスを崩した。
そんな俺の上からカカシさんが覆いかぶさってくる。
腕と腕に挟まれ、身動きがとれない俺にゆっくりとその整った顔が近づいてくる。
ゆっくりと、ゆっくりと。
あと数センチでキスされる、そんな所まできたとき、カカシさんの動きが止まった。
そして、その瞳が細められたかと思うと、微かな笑い声が聞こえた。

「シカマル・・・こういう時はちゃんと押し返さなきゃ、駄目だよ?・・・」

じゃないと襲われちゃうよ、と言い離れた。
俺はそんなカカシさんの様子にポカンと、口を開けた状態で止まってしまった。
そんな唖然としている俺が面白いのか、楽しそうに笑いながら台所へと戻っていった。




俺はその姿が消えると、ゆっくりと頭を抱えこんだ。

「・・・」

俺はなんで反応できなかったのだろうか。
カカシさんの言うとおり、普通だったら押し返すものだ。
あのままいっていたら、俺はキスされていた。

「・・・」

そっと自分の唇に触れると、目を閉じた。
俺は、押し返さなかったのじゃない。
押し返せなかったのだ。
あの瞳を見た瞬間、体が麻痺したかのように動けなかった。
きっと、それはあの人の潜在的な怪しい魔力のようなものなのだろう。

「・・・」

そうさ、俺にはアスマだけなのだ。
俺が愛しているのはアスマだけ。
俺がほしいのはアスマだけ。
いつまでも一緒にいたいのはアスマだけ。
抱きしめてほしいのはアスマだけ。

「・・・」

一つも今は叶わないけど・・・




台所へと戻ると扉を閉めた。
そして足が力をなくしたように、背を戸に預けながら、その場にペタリと座りこんだ。
顔が燃えるように熱い。

俺はいったい何をやっているんだ。
さっき自分がしてしまった事が、何度も何度も頭の中を往復する。
そして、間近で見たシカマルの顔が頭から離れない。
その濡れた桜色の唇も。
その美しく光る漆黒の瞳も。

「・・・」

欲しい、そう思った。

いくら否定しようと思っても、自分の感情は誤魔化せない。
俺は確かに、あの子の全てを自分のものにしたい、そう思った。
何故突然。

震える手で口を覆いながら、ゆっくりと深呼吸をする。
収まらない動悸。

俺は前からシカマルの事が好きだった。
本当に大事であった。
けど、好きだという感情の前に、あの子はアスマのもの、そういう考えが先にでた。
それが俺のシカマルへの想いを違うものへと変えていた。
俺はアスマのようにシカマルの側に居ることはできない。
いやむしろ、したくない。
俺はアスマじゃない。
アスマの代わりとなる事はできないし、なりたくもない。

シカマルは今もアスマの事を愛している。
それは明らかだ。
そしてその想いは消える事はないだろう。
シカマルもアスマと同様に不器用だから。

さっきも俺は最初は冗談のつもりだった。
ちょっと困らせてみようかな、とその程度にしか思っていなかった。
きっとすぐに怒った顔をするか、困ったような声をあげるだろう、そう思ったから。
けど、違った。
シカマルは何もせず、ただ俺の事を見つめるばかりだった。
その瞳は、まるでアイツに向けるのと同じようだった。

ダンと強く床を叩いた。
腕を痛みが伝わる。

そんなわけないだろうと、唇を強くかむ。
少しでもそんな風に考えてしまった自分に腹がたった。
そしてその考えを払うように頭を左右に強く振り、ゆっくりと立ち上がった。
足元がふらつく。

「・・・大丈夫だ・・・」

きっとさっきのは気の迷いだ。
気持ちを誤魔化せないまま、俺は食卓についた。

あと少しでシカマルが入ってくるだろう。
それまでにいつもどおりの笑顔を作らなければ。
ふぅと長く息を吐くと、頭の中を空のようにするようにした。
それは人を殺める前に似ている。
そしてスッと目を扉へと向けた。
あの子が入ってくれば笑顔を作れる準備を完了する。



ガチャガチャと皿を洗う音がする。
布団の中でうずくまりながら、その音に耳を傾けた。
結局夕飯を食べに食卓まではいけなかった。
夕飯はいらないと言い、部屋に入ってしまったのだ。
カカシさんの作るご飯は美味しいのに、申し訳ない事をしてしまった。

けど、今は顔を見れない。
自分がどうしてしまったのか、理解できない。
自分がいったい何を考えているのか、分からない。

布団の端を手でギュと握ると、そっと布団から頭を出した。
どうやら皿洗いは終わったらしく、音がしない。
ホッとしてゆっくりと息を吐いた。
けど、どこか自分の中でひっかかる、違う感情があった。

でもきっとこれは何かの勘違いだ。
早く忘れてしまおう。
明日にはいつものように笑顔で挨拶しよう。
いつも通りの日々に戻ろう。
そうだ、それが一番いい。
俺にとっても、カカシさんにとっても。

自分に言い聞かせるようにすると、早く寝てしまおうともう一度布団に戻ろうとした。
けど、その瞬間トントンと音が静かな部屋に響く。

「・・・シカマル・・・ちょっといいかな?」

紛れもなくカカシさんの声。
扉の向こうから俺に呼びかける声。
優しい穏やかな声。




食卓で座ってまっていたが、あの子はいらないと言い、姿を見ることはなかった。
それは良い事なのか、どうなのか。
手元にあった箸を転がしながらボーと考えていた。

目の前にはもう既に冷えた夕飯。
俺の分と、シカマルの分。
そして今日の夕飯を少しずつ乗せた、小さな皿とタバコ。
アイツのためのもの。
あの日から欠かさず続けているから、もう習慣となってしまったようだ。
あの、アイツが消えたあの日から。

俺はどうしたらいいのだろう。
気の迷い。
そんな言葉でさっきは終わらせようと思った。
けど、考えれば考えるほど自分の気持ちが、誤魔化しようのないものだと分かってきてしまう。

簡単に言ってしまえば。
俺はシカマルが好きだ。
そしてあの子の事がほしい。
これは確実のようだ。

アイツのために用意したタバコを手にとる。
俺とは銘柄の違うそれに俺はいつも文句を言っていたっけ。
苦いとか、そんな事を。
サイドテーブルからライターを取ると、口に挟んだタバコに火をつけた。
タバコの先が赤く染まる。
その様子を見つめながら、ゆっくりと吸った。
やはり苦い。

「・・・やっぱりこれ美味くないよ・・・アスマ・・・」

そう呟くと立ち上がった。




聞こえてくるのはカカシさんの声。

気がつけば、その声に誘われるかのように扉の前にいた。
右手はドアノブを掴んでいた。
それをひねれば、目の前にはカカシさん。
俺を支えてくれた優しい人。
俺をアスマ以上に大事にしてくれた人。
やっぱりこの気持ちは誤魔化せない。
俺はカカシさんが好きなんだ。
その声を聞いて、俺はようやくわかった。
この気持ちを忘れてしまう事なんかできない。

俺はゆっくりと時計回りにまわした。

けどその動作は途中で止まった。
聞こえたのはアスマの声。
もう消えたはずのその優しい声。

『シカマル』

俺を呼ぶ声。

「・・・アスマぁ・・・」

声が耳から離れない。



ドアノブから手を離すと、崩れるようにその場に膝から座った。

なんで今更。

唇を強く噛んだ。
この扉を開ければ、俺を助けてくれる人がいる。
その腕の中でなら、俺はきっとアスマの事を忘れられる。

強く噛んだ唇から血がにじみ出る。
口内に染み渡る鉄の味。

何で今更アスマの声がよみがえるんだ。

目をつぶれば、さらに鮮明になるその声。

「・・・カカシ・・・さん・・・」

震える声でその名を呼ぶ。
そして俺はもう一度ドアノブを掴んだ。


                * * *


あれから十数年。


カカシは一つの墓の前に立っていた。
手には彼岸花。
彼のために用意したものだ。

「・・・もうあれから何年もたったね・・・」

しゃがむと、刻まれた大切なその名前を指でなぞる。
そしてそっと、その前に花を置いた。

「俺も歳とっちゃったなぁ~・・・」

ゆっくりと微笑むその表情は、あの頃と変わらない、優しいもの。
むしろ年月を経て、さらに柔らかみをもったようだ。
そんな彼の耳に、僅かな足音が入る。
忍らしい、あまり足音をさせないその歩き方。
彼もかなり成長したようだ。
その事が嬉しくて、思わず笑う。

「おぃカカシ。」

後ろからの声。
それと合わせて立ち上がる。

「遅かったね。」

振り返った先には、すっかり大人となったシカマルの姿。
右手は腰に当て、左手にはカカシと同じ彼岸花。

「急に暗号解読を頼まれてな。」

ほんとめんどくせーぜと、変わらないセリフ。
そんな彼の様子にカカシは苦笑する。
やっぱりあまり成長していないかもしれないと思った。

「お疲れ様奈良上忍。」
「その呼び方やめー」

カカシの横に来ると、墓へと花を投げた。
そしてポケットからタバコの箱を取り出し、それも放り投げる。
一本だけ残しておいたタバコに、慣れた様子で火をつけ、吸う。
吐き出した白い線はアイツの事を思い出させる。

「・・・あれからもうけっこう経ったな。」
「・・・そうだね。」

ゆっくりとシカマルが微笑んだ。



あの日。
互いへの気持ちに気がついてしまったあの日から。
彼らは別々に住むことにした。

シカマルは本家へと帰り。
カカシも、もとのアパートへと戻った。

アスマの事を忘れられないし、忘れたくない。
だからカカシさんとは一緒にいれない。
あなたは優しすぎるから。

そう言ったシカマルの言葉に、カカシは黙って頷いた。
深くは聞かない。
でもなんとなく分かった。
そんなシカマルの気持ちが。
感情なんて説明できるようなものじゃない。
それは分かっていた。
自分もそうだから。



「さてと。そろそろ行くか~」
「どこに?」

タバコを指で挟むとカカシへと視線を向ける。
するとカカシはとても楽しそうに指を一本上げた。

「パーティーだよ。」

そんなカカシの言葉に、シカマルは眉間にしわを寄せた。
この人はいったい何を企んでいるのだろう。
そんな事を考えている目。
それに気がついたのか、カカシはさらに楽しそうに笑う。

「『奥様聞きましたか~?あのドベ2の奈良シカマル君が、奈良家の当主になったそうですよ~』
祝いパーティーだよ。」
「とっても長い名前ありがとうございます。」
「俺センスいいでしょ?」
「抜群ですね。」

うんざりとした表情のシカマル。
そんな事も気にせずはしゃぐカカシ。

「それじゃ~皆待たせてるから行こ~」

シカマルの腕を掴むと、走り出した。
そんなカカシのせいでよろけながらも、シカマルは腕を掴まれながら走った。

「まったくアンタは・・・」
「惚れ直した?」
「どこからそうなる・・・」

指で挟んでいたタバコの火を指で消すと、そのへんに放り投げた。

そして盛大なため息をついた。




アスマが死んで十数年。

色々な事が変わった。

二人の関係。
二人の生活。
それぞれの人生。

けど一つだけ変わらない事がある。


それは二人、そしてアスマのみ知る事。





{atogaki}
8000hit のキリリク「カカシカ」でした。
那枯乙様、キリリクありがとうございました。
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