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2011年1月3日
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爪弾く心



シンのハープの音を聞いたのは、最後はいつだったでしょう。
レイは窓から見える、木の陰に座るシンを見つめながら、小さく呟いた。
どうだっただろうな、とルカがレイの体を抱きしめながら応えた。
レイはそんなルカの温かい腕の中で、その優しい心を震わせて涙した。
漏れるように聞こえるレイの辛そうな声に、ルカはただただ、抱きしめる他なかった。
脳裏に浮かぶのは、朱色の美しい天使であり、自分が信頼を寄せる相手。
何故お前はこんな選択をしたんだと、血が滲むほど強く唇を噛んだ。







そろそろ日が暮れる、それを伝えるように鳥達の歌がやみ始めた。
徐々に色を変えていく世界に、シンはその金色の瞳を細めた。
繊細な眼鏡の向こうで細められた瞳は、どこか紅色に染まり始めた空の向こうを見つめている。
彼の水色の流れるように美しい髪が髪に遊ばれるように揺れ、彼の華奢な肩を撫でる。
いつもは結わえているその髪は、ただ背に流され、風の思うがままに舞う。
その膝の上に置いてある分厚い本に手を乗せ、シンはその桜色の唇を僅かに開いた。

「  」

何かを言葉にしたかのように、その開いた唇は僅かに動いた。
しかしその場に広がる声は無く、風の木の葉を揺らす音のみが広がる。
最後の鳥ももう巣に帰ったようである。
それに気がついたのか、シンはその瞳を一度閉じると、ゆっくりとした動作で立ち上がった。
膝の上にあった本を左手に持ち、そして眼鏡の位置を人差し指で直せば、クルリと体をレイの家へと向けた。
ヒラリと水色の髪は光を反射しながら、まるで水面のようにキラキラと輝きを放ち揺れる。
それに相反するかのように、彼の金色の瞳は闇にあるかのように、まるで光がなかった。
レイの家へと歩む彼の後ろで、空は鮮やかな紅色に染まっていく、まるで誰かの髪のように。



*  *  *



「あっ!!シンそれ俺にも回してくれ!」

ガイの大きな声に反応し、シンは苦笑を浮かべながら手の中の皿をガイへと渡した。
それをガイはサンキュと笑いながら嬉しそうに受け取る。
レイの家での夕食は相変わらず賑やかであり、また並べられた料理も絶品であった。
クルリと、様々な料理の乗せられたテーブルを囲むように皆は座り、それぞれの皿に料理をちょっとずつのせて食べる。
見ればゴウとガイの皿の上には、他の皆よりもはるかに多くの料理がのせられていた。
そんな彼らは料理を味わっているのかどうなのか、すごい勢いで口に運んでいた。
レイはそんな様子に呆れたような、怒っているような口調で一言二言言う。
もちろんレイのその言葉に、ガイは何―!とキバを伸ばしていた。
ルカは彼らのそんな様子にククッと喉の奥で笑いながら、果実酒を口に含む。

「お前達は、相変わらず仲がいいな。」
「そっそんなルカ!どこかですか!?」
「そうだそうだ!!何でこの状況でそう思うんだよ!!」
「むしろこの状況から、そう思うんだと思うんだがな。」

今日もいつものように食卓は賑わい、シンはいつものようにそんな様子を笑みを浮かべて見ていた。
その手に果実酒のグラスを持ちながら、時たま思い出したようにグラスを唇にもっていった。
そんな彼の横でユダは嬉しそうに笑みを浮かべ、時たまククッとそのテノールの声で笑いを漏らしていた。
彼の鮮やかな朱色の髪が笑うたびに揺れ、美しい蒼色の細められる。
その美しい蒼色の瞳に移るのは、黒い髪の天使であった。

「ねぇいつか一緒にそこに行こうよ、ねぇユダ?」
「そうだなシヴァ、ぜひとも行ってみたいものだ。」

整ったその顔に浮かべられた、美そのもののようなユダの優しい笑みに、シヴァは幸せそうに頬を染めながら、うんうんと何度も頷いた。
ユダはその様子に満足したかのように、笑いながらシヴァの頭を撫でた。
そんなユダとシヴァの様子をシンは目の端で見つめていた事に、彼らは気がついてはいない。
ただレイとルカのみが、心配そうにシンを見つめていた。



*  *  *



夜風が冷たい。
シンは一人夜の森の中を一冊の本を手に歩いていた。
僅かな風に揺れる木々に耳を傾けながら、目指すのは夜の湖。
彼は毎晩のように、“あの日“から、あの湖の側で夜を過ごすようになっていた。
木々の音色も、風の肌を触れるソレも、どれもかもそこでは優しかった。
何より、湖に映る月の影が今にも消えそうなほど儚いのに、何故かとても安心させてくれた。

それに、あそこは幸せな記憶が満ちている。

それもこれも“あの日”からは、ただの美しい思い出、まるで幻影にも似たモノになってしまった。
月明かりに照らされた湖に来ると、シンは一本の木の下に腰を下ろした。
そして手に持っていた本は膝の上にのせ、その本の上に手を重ねるようにしてのせる。

「・・・今日も月が綺麗ですね・・・」

上げた目に映った月に、僅かに目を細めると微笑をシンはその顔に浮かべた。
何処と無く儚いその表情、繊細な眼鏡の奥で虚ろな金色の瞳。
それはレイの所での食事の時の顔とは全くといっていいほど違うものであった。
そこには生気はなく、今にも呼吸を止めてしまう、そのような薄い存在となっていた。
水色の美しい髪が、それに相反するように艶やかに輝くばかり。

「・・・・・・・わたしは、何時までこのように・・・」

呟いた言葉は表れた直後に、月の光に消えた。


 * * *

「・・・・!?」

いつものように木に背を預け、シンは本を読んでいた。
けど、めくったページに目を滑らせていたシンは、近くに慣れ親しんだ気配を感じて、顔を上げた。
これは-その気配の人物をすぐに思い浮かべ、シンはどうしようかと辺りを見回し、それから慌てるように立ち上がった。
思いのほかその知る気配は早くココに向かってきていた。
できるならば今夜もこの湖の側で過ごしたかったが、しかしこの気配の人物とはここでは会いたくはなかった。
早くこの場から立ち去るのが得策であろうか、けどわたしが彼の気配に気がついたのだ、もう彼はわたしに気がついているだろう。
そう考えると、今ここでここを立ち去るのは不自然かもしれない、そう考えると足は自然とそこに釘付けされるように動かなかった。
それに心の奥底で、彼に会いたいという心が、誤魔化せないほどにあったのも事実。
しかし、何故彼がわざわざここに来ようとしているのだろうか、困惑に本をもつ手に自然と力が入った。



「・・・シン・・・」

そうやって、気配が近づいてくるのを待っていると、木々の間から彼の姿が現れた。
その口から発せられた私の名に、酔いそうになるのを堪えながら、微笑を浮かべた。

「どうなされたのですが、このような夜中に・・・ユダ?」

シンは瞳に描き出されるだろう己の感情を隠すように目を閉じ、不自然な笑顔をユダに向けた。
ユダはそんなシンをどこか悲しそうな表情を浮かべ、しばらくの間見つめていた。
二人の間を流れる空気は重く、そしてぎくしゃくしたもの。
そんな二人の間の沈黙を破ったのは意外にもシンであった。

「・・・・くしゅん・・・」

小さなクシャミの音と共に、シンは自分の口を手で覆った。
そんなシンの肩に、ユダはすかさず自分の上着をのせた。
僅かに触れたユダの温かい手に、シンはその頬を桜色の染め、それから小さな声で礼を述べた。

「今夜は冷えるからな、そのような薄着では寒いだろう。」

耳元で聞こえるユダの、優しい声色。
シンは高まる心音に、今にも全ての感情を吐き出しそうな唇に、上着を握る事で誤魔化そうとした。
これではまるで、私とユダの出会いのようだ、そう思えばなおさら、胸は疼いた。

「それよりもユダ・・・何か用事があったのではないですか?」

こんな夜更けにこの湖に来るなど、とシンはユダに顔を見せる事無く問うた。
それにユダは、あぁと同意を示し、しばらくの沈黙の後、そっとシンの髪に触れた。
結わえる事なく背に流されるようにされていたシンの水色の髪に指を滑られ、その柔らかい感触に微笑を浮かべた。
シンはビクリと肩を震わせたが、ユダはそれに気がつかないフリをし、何度も髪を梳くように指の間を通り抜ける髪の感触を味わった。

「・・・お前の髪にこのように触れるのも久しぶりだな・・・シン・・・」
「あっ・・・貴方とこのようにお話をするのも・・・久しぶりですよユダ・・・」

それもそうだなとユダは笑うと、シンの髪から指を離した、それにシンはホッと一息をついた。
けれど次の瞬間、ユダはシンの首筋に触れた、それにシンは驚きすぐさま離れようとした、けどそんなシンをユダはその腕を掴んで止めた。

「すまない、驚いたか?」
「あっ・・・いっいえ・・・」
「最近お前が髪を結わえていないようだから、新しいリボンをプレゼントしようと思ったんだ。」

これだと差し出されたのは、前に頂いたのに似た、白いリボン。
それを見たシンの表情は今にも泣き出しそうになっていたが、ユダからはその表情を見ることはできなかった。
ユダはその美しい顔に、優しい笑みを浮かべ、そっとまたシンの髪に触れた。

「結わえさせてくれないか・・・シン?」

囁かれる、ユダの胸振るわせる美しい声が、わたしの心をえぐり涙させる。
こんなにも、貴方の優しさが苦しく、そして残酷だなんて夢にも思わなかった。
わたしが何故髪を貴方がくれたリボンで結わえる事ないのか、それを貴方は理解していないのですね。

「・・・・・・・ユダ・・・」
「ん?どうかしたのかシン?」

わたしではなくシヴァの横で、楽しそうに嬉しそうに微笑む貴方の姿。
そんな貴方の姿を毎日のように見なくてはいけないわたしの気持ちを貴方は分からないのですね。
前までは、今シヴァがいる位置にわたしはいた。
貴方の横で、貴方と共に歩みながら、時間を共有していた。
貴方はそして誓ってくださった、わたしに貴方の時間をくださると。
けど、貴方はその約束も忘れ、わたしにくださった誓いをわたしではなくシヴァに与えている。
その笑みもその優しさも。
どんなに貴方を恨んだことか、きっと貴方は知らないのでしょうね。

木々が揺れる。
風が頬をなでる。
月明かりが闇を、美しく涙するシンの横顔を照らした。




「・・・貴方は、残酷なお人ですね・・・ユダ・・・」




それでも貴方を愛して止まない。
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